間違い探し

「なんだ。そんなデカい溜息なんか吐いて」
「いや、何というか...こんなことしてていいんですかね?」
「こんなこと、と言うと?」
「デマの流布ですよ。お偉方はウチらのことを広報宣伝部なんて言ってますけど、僕たちの仕事ってSNSやら個人ブログやら、色んな場所で『らしい』アカウントを作ってでっち上げの記事書くだけじゃないですか」
「ああ、それか。俺も配属された時は『話と違う』と思ってたからな。とはいえ、ウチみたいなフードチェーンで顧客の矢面に立たないだけ恵まれているのは事実だろ」
「まあ僕もこんなことを言いながら続けているわけですから否定はしませんけど。ところで、何でウチの会社はわざわざ危ない橋を渡ってまで他社の扱き下ろしなんてしてるんでしょう。僕たちも"らしい"広報活動なんてしてませんし」
「簡単だよ。他社の扱き下ろしに専念する理由だが、自社の商品価値を上げるより他社の商品価値を下げる方が楽な世の中になったからだ。
人間ってのは悪い印象の方が強く記憶に残りやすい生き物だからな。しかも周りに左右されやすい。流行には乗っかりたくなるし、街角で同じ広告を何度も見れば興味が無くても気にかかる。それが『○○は不味い』なんて文句なら、尚更強く引っかかる。だから、悪印象を植えつければあとは勝手に育っていくってわけだ。

一方で、商品価値を上げるなら、クォリティアップかコストダウンが必要だ。前者も後者も、結局現場に負担を強いることは変わらない。クォリティを上げれば調理の手間が増えるし、コストを下げれば労賃が減りかねん」
「だから競争相手を貶めるってことですか?僕には自社商品の売り上げには貢献しないように思えますけど」
「そうだろうな。でもウチの数字は上がってるし、競合他社の成績は下降してる。俺たちがやってることも、性根の腐った人間のヘイトスピーチじゃないってことだ」
「なるほど...あと、『広告』を作ってない理由なんですけど」
「それか。部長からは『お偉方と株主だけで決めた方がイザコザが少なくて助かる』とか、『謳い文句はコピーライターに書かせた方が良い』とか聞いたが」
「そんな理由なんですか」
「まあ、コピーライターにとっても難しい世の中になってるからな。ままならないもんさ、人生ってのは」
「世知辛いですね...」

 

 


「ところで、広報宣伝部の方は?」
「上手くやってますよ。もっとも、彼らの書き上げた記事が役に立つのが何年後かは知りませんが」
「了解。しかし君もよく考えたものだ、使えない人材にそれらしい理屈を付けてフェイクニュースを作らせておくなど」
「我ながら悪趣味だとは思いますがね。ただ、彼らが無知かつ無能だからこそ、役に立つ可能性もあるかと。役に立つ"かもしれない"とはいえ、購買層の行動理論を『感情論から生じる不買』から見るのは、アンケート調査如きでは無理がありますから。それに」
「それに?」
「どこぞの窓際部署のように新聞のスクラップなぞ作らせておくよりは、遥かに有意義でしょう。無知な馬鹿だから許しているのであって、下手に知識を付けられても困りますので」
「君は辛辣だねえ。まあこれからも宜しく頼むよ。人事部門の頑張りを反故にしないためにも、しっかり腐ったミカンを分別してくれたまえよ」
「承知致しました。では、失礼します」