とある博士の手記

人口が60億人を越えると、記憶処理の実行及びカバーストーリーの流布では完璧な隠蔽が困難になってくる。そして一度認知された異常存在は伝染病の如く急速に世界へ広まり、やがてKクラスシナリオを引き起こす。それが"今迄の世界"から得られた知見だった。
この「60億人問題」のため、我々は備えなければならなかった。重要なのは、人々に「異常存在など存在しない」という価値観を植え付けること、そして「SCP財団なるものは存在しない」と思わせることの二点。これらを実現すべく、我々はある方法を実行した。それこそが科学の台頭である。

科学の台頭によりオカルトへの不信感を強め、科学至上主義を国際的なミームにすること。異常存在への不信は、我々の隠蔽にも繋がった。そのために欧州主導の世界を作り上げ、"世界の縮小"に際して米国、そして中国というサテライト拠点を作り出した。
このプランは恐ろしいほどに上手く機能していた。何しろ千年紀を懸けた計画だ。数々——例えば米国の独立が183日と3時間12分8秒55早まったこと、『ネッシー』を始めとする一時的なオカルトブーム等——のイレギュラーが発生したものの、約束された成功を遮るほどのものではなかった。
——21世紀に入るまでは。

SCP-1999-JP。その現実改変能力によって、『日本支部』という訳の分からない異分子が誕生してしまったのだ。大量の異常存在と共に。
今迄の世界でもこのSCP自体は観測されていたようだが、『日本支部』なるものは発生していなかった。既知の世界に安堵していた我々は、突如としてこの未知の現象に立ち向かわなければならなくなった。

我々は二つ目の方法を実行した。すなわち『SCP財団はアメリカ発祥の創作サイトである』というカバーストーリーの流布だ。従来は異常存在の隠蔽が目的だったカバーストーリーを、我々を隠蔽するために用いる。有り体に言えば苦肉の策である。
この方法は、余りにも大胆だ。現在『SCP Foundation』にあるSCPリストの中には、本当の異常存在すら含まれているのだから。
「一から百まで嘘で塗り固めるよりも、極一部は真実を練り込んだ方が良い。創作という免罪符があるならば、そうした方が"らしさ"が出る。広く流布される虚構とは、往々にしてそういうものはないか」
とある博士の発言が、SCP財団という『創作サイト』の方針を決定づけた。
科学の発展によりインターネットが普及したのは、思わぬ僥倖だった。結果として財団職員以外の『創作者』は加速度的に増えていき、今では世界各国に『支部』が存在する。虚構の異常存在は日々その数を増していき、『創作物』として出来不出来を評価される。

現状では、何もかもが上手くいっている。新たな異常存在の出現に対する特別収容プロトコルの措定も迅速だ。だが我々は思い出さねばならない。偶然にも制御に成功した異常存在をsafeクラスのSCPと呼んでいることを。『SCP財団』も同様だ。事実、要注意団体が解き放った異常存在の一部は事前にSCPとして登録されているのだから。

自己増殖する『SCP』。我々はこれを『SCP-XXX-GL』として管理していかなければならない。実在する数多の異常存在と共に。