“cheap”

焼け落ちた町並み。噎せ返る程の炎と血と肉の臭い。幾度となく脳裏に刻み付けてきた光景だが、初めて知ったそれと違って、今回は元凶として立っている。俺の前で震えているのは泣き喚いている餓鬼と、頭頂部まで禿げた男。恐らくは親子だろう。この組み合わせなら道具を使わずとも殺せそうだ、と思っていると禿げの方が声を発した。
「何で」
「は?」
は?としか言いようがない。何で、ってなんだよ。さっさと言葉を続けないと殺しちゃうぞ。
「何で殺そうとするんだッ!まだ子供だぞ!?
私達が過ちを犯していたとして、この子はそうじゃないだろう!何故ここで死ななければなら
「長い」
レスポンスは良好だったし、文句を垂れるのは別に構わない。ただ、二言くらいにしてくれないと困る。長いので。あと唾が頰に掛ったので、取り敢えずペナルティとして頭を横薙ぎに蹴り飛ばした。発言に相応の軽さをした、空っぽの頭だ。綺麗に首が回転し、薄皮一枚を残して胸元へ釣り下がる。ギリギリ息があるくらいで留まる予定だったのだが、いかんせん脳味噌がカスカスだったようだ。
次いで、餓鬼を叩きつけて潰す。一回でも良いが、馬鹿な親父にむかついたので二回。泣き喚くのが耳障りだったので三回。一回めで視界の端から圧迫された眼球が飛び出して行ったのが見えたので、後の二回は完全に憂さ晴らしだ。迅速に、機械的に、有無を言わさず殺すという。それが軍規で定められた理想なのだが、どうにも情が先立ってしまって良くない。
俺はこいつらが憎い。
だがそれ以上に、全員殺さなければならないという強迫観念がある。自分達が傷付かないために。あるいは復讐されないために。こいつらの血を根絶やしにしなければならないという使命がある。だから殺す。女子供も大の男も構わず殺す。視界に入ってきた劣等は全員殺す。
何故なら、俺も死に損ないだったから。死に損ないがここまで来て、俺を殺そうとした連中を片っ端から殺し回っている。実例がある以上、誰一人として生かしてはおけない。
「誰かー!いないかー?」
『息も絶え絶えな生き残りが振り絞ったような叫び』を演じて声を上げると、街だったモノの下から呻き声が響き、雨後の筍の如く焼け爛れた腕が伸びる。流石に瓦礫から引き摺り出して殺し回るのは面倒なので、後で機動部隊にでも押し付けよう。次の仕事場へ行くほうが効率がいいし。
そうして、俺は瓦礫の山を後にした。